鳥が自由だと言ったのは誰だっただろう。
 地に降りて生きる事が出来ないのに。
 海で泳ぐ事が出来ないのに。
 空を離れることの出来ない鳥が何故自由なのか。



「あはは」
 これは夢だ。
「うふふふ」
 今私は夢を見ている。
 幸せだった時を見ている。
 現実は辛いから、夢だけでも暖かさが欲しいから。
「お誕生日おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう。おねえちゃん」
 この日は私の誕生日だった。
 家族は口々に私に祝いの言葉をくれた。
「ほら、プレゼントだ」
「ありがとう」
 お父さんは、前から欲しがっていた自分のお気に入りの時計を。
「あたしはコレ、おねえちゃんに似合うと思って」
「着けてみるね」
「わあ、おねえちゃんに合ってて良かった」
 妹は、少ないおこずかいで一生懸命選んだろうネックレスを。
「お母さんも頑張ったんだから」
 お母さんが言うとおり、テーブルの上には私の好きな物とバースデーケーキが所せわしと並んでいる。
 ああ、………この時は幸せだった。
 だから今がつらい。
 暖かさが思い出せるから。
 つらい今と比べてしまうから。


「………」
 肌寒さで目が覚めた。
 身体は水を被った様に冷たい。
 チュン。チュン。チュン。
 スズメの鳴き声が聞える。
 泣き声がした方に目が行く。
「あ………」
 そ・ら………。
「ああああああぁぁぁぁ!!」
 あそこまで行けばココから出れる。
「あああああぁぁぁ!!」
 だけど身体は前に進まない。
「ああああぁぁぁ!!」
 いくら力を入れても、何かに縛られて動かない。
「あああぁぁ!!」
「五月蠅い」
 ドガァ!
 頭を蹴られた。
 身体が部屋の壁にぶつかる。
「あ………」
 それで思い出した。
 寒いはずだ、何も身に着けていない。
 冷たいはずだ、熱など持てないから。
 動けないはずだ、四肢と首を繋がれてるから。
「人が寝てる時に隣で騒ぐな豚が」
 男がさらに私を蹴る。
「ぐっ………」
「てめえは大人しくしてりゃあいいんだよ」
 蹴る。
 蹴る。
 蹴る。
 蹴る。
 け………………る。


「………」
「手間かけさせんなクソ豚」
 身体の節々が痛い。
 鎖が伸びきってるから身体を庇う事も出来ない。
「ああ、気分悪い。責任取れよな」
「………」
「ちっ、とっとと股開け」
 男は乱雑に私の脚を掴んだ。
 ……………今からまた汚らわしい事をされる。
 自分の事なのに他人事の様だ。
 これ以上は耐えられそうに無いから。
 だから、他人事の様に心に蓋をした。



「じゃあな。ちゃんっと大人しくしてろよ」
 男は気が治まったのか、そう言って部屋から出て行った。
「………」
 身体は、中も外もドロドロした液体が付いている。
 ちょっと脚を動かすだけで、いやな感触がする。
 あの男が私を穢した証。
 気持ち悪い。
 吐き気がする。
「………」
 ココに攫われてから何日たったんだろう。
 昼ぐらいになると鉄格子越しに太陽が見える。
 だけど時間の感覚が分からない。
 だから四日くらい経ったのか、もしかしたら一月も過ぎてるのかもしれない。
 それとも、それ以上経っているかもしれない。
 ………………………死にたい。
 ここには辛い事しかないから、ここでは無い何処かへ。
 舌を噛み切ったら死ねるだろうか?
 靄が掛かった頭で考える。
 ………。
 分からないから、やってみよう。
 ここから出られるなら。
 舌を伸ばせるだけ伸ばす。
 そして、それに歯を立てようと口を閉じる。
 ………。
 ………。
 ………。
 ………。
 …………………………出来ない。
 目元が熱くなる。
 頬を何かが伝って嗚咽が漏れる。
「ううぅ……」
 出来ない。
 そんな事が出来るならとおにやっている。
 ここは辛いけど、死ぬのはもっと怖い。
「ううぅ……」
 私には死ぬ事も許されない。
 じゃあどうすれば。
 ドウスレバココカラデラレルノ?


「おら、メシだ」
 いつの間にか気を失っていたのだろう。
 気がついたらすぐ近くに男がいた。
「………」
 ボーとする頭で男を見る。
「ほら」
 この男が。
「メシだぞ」
 この男がイナケレバ。
「聞いてんのか!」
 ワタシハココカラデレルノニ。
「この豚が―――」
 考える前に身体が動いた。
「ぐがぁ」
 腕を縛っている鎖を男の首に巻きつける。
 けして早くは無かった、けど何とかなった。
「こ……の!」
 ガッ。
 殴られた。
 いつもは手加減していたのか今までで一番痛い。
「はなせ!」
 ドガッ。
 また殴られた。
 痛いけど、もう止めてしまおうと思うほど痛いけど、だけど力を込める。
「ひぅお……」
 男の顔色が変わって行く。
 肌色から赤く。
 赤から青に。
 抵抗も無くなってくる。
「………」
「………………み…………き」
 男は誰かの名前を呼んで動かなくなった。
 誰の名前か分からなかった。
 けど、何故か心の中に氷が落ちた。


 鍵は男が持っている筈だ。
 鍵を探すため男の身体を漁った。
 身体を触る度に、胸が締め付けられる。
 分からない。
 分からないから鍵を探した。
 鍵はズボンのポケットに入っていた。
 男が履いたままだから、苦労して鍵を取り出した。
 カシャ。
 私を縛っていた鎖を外す。
 ここから出られる。
 もう私を縛る物は何も無い。
 そして私は、ここを出た。


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